先日も前回に続き日本語ボランティア向けの研修会で講師をしました。
今日はその内容をブログにまとめてみます。
使役動詞(せる、させる)は、学習者にとっても受身形に並ぶ難関文法
ですが、初級(大体日本語能力検定3級程度、つまり学習暦1~2年程度)で
学習する基礎文法です。
しかしこの使役動詞、上級になってもなかなか定着しない文法なのです。
特に中国人学習者によると、
日本語能力試験の1、2級レベル(例「~からにはや「~もさることなが
ら」など)のほうが翻訳しやすいので理解しやすいらしく、
かえってこのような使役動詞や受身動詞などは、運用が難しいのです。
実際日本で生活して日本人との付き合いがなければなかなか身につかない文法と
言えるでしょう。
学習者の中には、「使役動詞なんか使わなくてもコミュニケはとれるし、
大丈夫」なんていう人も・・・。
また教師仲間の間でも、使役動詞を学生が運用させるのは無理とあきらめてしま
うこともここだけの話、多いのです。。。
微妙なニュアンスを伝えるには、頻出のパターンだけでも是非使えるように
なってほしいものですが。
実は、学習者にああだこうだと言う前に、教師のほうで整理ができずに
その結果、学習者にも混乱させてしまうと言うことがよくあります。
日本語を教えている人も、そうじゃない人も、一度日本語を外国語として
見つめ直してみませんか。
《使役形の作り方》
・五段動詞 → 「ない」形の「ない」を消して「せます」
例:泳ぎます・・・泳が(ない)せます
・一段動詞 → 語幹とますの間に、「させ」を挿入。
例:食べます・・・食べ させ ます
・カ変・サ変 → 来させます、させます
《学習者のよくある誤用、あなたはどう直しますか?》
①「お父さんは、まさおくんを新聞を持ってきてくらせました。」(メキシコ)
②「すみませんが、ちょっと相談していただけませんか。」(中国)
↑自分が相談したいという状況です。
③「それはわたしをがっかりさせました。」(アメリカ)
④「リサさんは、田中さんに漢字を教えさせました。」(中国)
↑リサさんは外国人で、田中さんは日本人です。リサさんは田中さんに
漢字を習います。
《解答例》
①「お父さんは、まさおくんを新聞を持ってきてくらせました。」
⇒○「お父さんは、まさおくんに新聞を持って来させました。」
・ 使役文中に、「を」は2回来ない。
人物は「に」。→「まさおくん に」
・ 「持って来ます」は自動詞か他動詞か?
他動詞ですから、「を格」。→「新聞を」で正しい。
・ 「持って来ます」の使役形は?
持って来ます→持ってこさせます サ変です。
②「すみませんが、ちょっと相談していただけませんか。」
⇒○「すみませんが、ちょっと相談させていただけませんか。」
・例示 「写真を撮っていただけませんか。」→写真を撮るのは、相手です。
・「相談する」のは誰か?
私
・ 自分が何かを頼みたいときに使う
例「気分が悪いので、休ませていただけませんか。」
「おもしろい仕事なので、私にやらせていただけませんか。」
※自分が何かを依頼するとき、「~てもいいですか。」で何でも済ませよう
とする学習者がいます。
確かに初級前半で学習するこの文型のほうが、使うのも簡単です。
では、なぜ「~させていただけますか。」が存在し、使われているのでしょう
か。
両者の文型を比べてみると、丁寧な度合い、相手への敬意の持ち方などが
違います。
例えば、人が少ない職場で、長期の休みを取りたい時。
確かに社員としては当然の権利という見方もできますが、いくら正当な理由が
あったとしても、日本人としてはなかなかこのような状況では言い出しづらい
ものです。
そこで上司に「来月10日ほど、休んでもいいですか。」
と言えば、上司に大変失礼な印象を与え、上司との関係が悪くなりそうですね。
いくつかの例を与え、日本人の言語文化を伝えなければ、この表現は身につかな
いでしょう。
ですが、この「させていただけませんか」のパターンが使役動詞の文型では一番覚えて
使いやすいことも事実です。たくさん練習して運用してほしい文型と言えます。
③「それはわたしをがっかりさせました。 」
⇒○「私は(それで)がっかりしました。」
・ 主語が生き物でなければならない。
例「息子はお母さんをがっかりさせました。」
・ 動詞は能動態(つまり普通の形)にする。
「私は(それで)がっかりしました。」
※「私はがっかりさせられました。」と使役受身の形を使うこともできます
が、文章で使われることが多いように思います。
従って会話文では能動態を使うように伝えます。
また、そのほうが学習者も使いやすいでしょう。
④「リサさんは、田中さんに漢字を教えさせました。」
⇒○「リサさんは、田中さんに漢字を教えてもらいました。」
・誰が漢字を教える?/誰が漢字を習う?
教えるのは、田中さん/習うのはリサさん
※使役文では、「誰が何する」人物関係を整理しないと、混乱します。
・田中さんは嫌がっていますか、うれしいですか?
外国人であるリサさんが、日本人の田中さんに漢字を習ってうれしいはず
です。
そして田中さんも、いやいや教えているのではないはずです。
ですから、使役動詞は使えません。
「~てもらう」を使います。
例:「私は友達に宿題を手伝ってもらいました。」
「李さんは張さんにごはんを作ってもらいました。」
※「あげもらい文」の主語は
一人称、二人称、三人称のいずれも可能です。
※ 使役文は、大きく分けて「強制」「許可」「誘発」の3つの用法が
あります。
①「強制」(「お母さんは子どもに野菜を食べさせます。」)
お母さんは野菜が嫌いな子どもに無理に野菜を食べるように
言います。
②「許可」(「鈴木課長は田中さんを10日間休ませました。」)
田中さんは10日間の休みが欲しいです。
鈴木課長は休んでもいいといいました。
③「誘発」(芸人はたくさんの客を笑わせるのが仕事です。」)
泣く、笑う、驚くなどについて、自然に相手をある状態
にするという意味です。
以上長々と説明しましたが、このように使役動詞は奥が深いもの。
私たち日本人は何気なく使っているものでも、説明するとなると大変です。
中国語に置き換えれば“让”になるのでしょうが、置き換えて発話した結果、
不自然な日本語になっている学習者を見ると、やはり直接置き換えるのは難しい
ようです。
私もその辺りはよくわかりません。どなたか教えていただければありがたく思い
ます。
使役動詞は初級で学びますが、中級、上級に進んでも、時間をかけて誤用を修正
し、正しい運用につなげていきたいものです。